部署の勉強会でAIの使い方を頼まれた。新人研修に1コマ任された。外部から講師の依頼が来た。AIの使い方を教える機会は、この数年で急に増えました。
困るのは、教える中身より先に、教え方そのものが決まっていないことです。順を追って基礎から積み上げるべきか、参加者の得意な話題から入るべきか、1回で全部を扱うべきか、それとも数回に分けるべきか。教える側の準備時間は限られているのに、決めることは意外と多いのです。
このコースでは、AIの使い方を教える設計を7回で組み立てます。今回はまず、教え方そのものの入り口を4つに整理します。
補足
このコースの枠組みについて
このコースが土台にしている「委任力・記述力・評価力・倫理的責任」という4つの力(4D)の考え方は、Rick Dakan氏・Joseph Feller氏とAnthropicが開発したAI Fluency Frameworkをもとに、AMPLが独自に書き起こしたものです。前提コース「AIと働く4つの力」で4つの力そのものを扱っています。読んでおくと、このコースの用語がすぐに通じます。
教え方の入り口は4つある
同じ「委任力・記述力・評価力・倫理的責任」の4つの力を教えるにも、入り口の選び方は一通りではありません。受講者の経験、確保できる時間、扱うテーマの性質によって、向いている入り口が変わります。
教え方の4つの入り口
順に積む
委任力→記述力→評価力→倫理的責任の順で、下から積み上げる。初めてAIを教わる人向け
どこからでも入る
受講者が今直面している課題や事例から入り、必要な力を行き来しながら扱う。ある程度AIに慣れた人向け
1つを深く
4つのうち1つの力だけを、時間をかけて掘り下げる。短時間のディスカッションやスキル演習向け
2つの往復で教える
委任力と倫理的責任の往復(何を任せるか、どう責任を持つか)、記述力と評価力の往復(どう伝えるか、どう確かめるか)を、対になるものとして教える
4つは優劣ではなく、場面によって使い分ける道具です。1回きりの90分研修なら1と3が現実的で、複数回にわたる連続講座なら2や4も選べます。
「順に積む」と「どこからでも入る」の違い
初めてAIを教わる人には、順に積む入り口が向いています。委任力(何を任せるべきかを見極める)から始め、記述力(どう伝えるか)、評価力(どう確かめるか)、倫理的責任(どう責任を持つか)へと、後の力が前の力を前提にする形で進みます。
一方、すでにAIを日常的に使っている受講者には、この順番が回りくどく感じられることがあります。むしろ「先週AIに任せた仕事で困ったこと」のような具体的な事例から入り、そこで必要になった力を後から名づけていくほうが、実感を持って理解されます。
新人向け研修と、経験者向け研修
委任力の説明から始め、演習も委任力だけに絞る。次回に記述力へ進む。「まず型を知ってから使う」設計。
受講者がAIをほぼ初めて使う場合、一気に4つを扱うと消化しきれません。1つずつ確実に積むほうが定着します。
「先週AIに任せて失敗した仕事」を参加者に出してもらい、その事例の中で委任力・記述力・評価力のどこに課題があったかを一緒に診断する。「実例から型を逆算する」設計。
すでに使っている受講者には、抽象的な定義から入るより、自分の経験を材料にするほうが早く納得されます。
短時間なら「1つを深く」、対で考えさせたいなら「2つの往復」
研修の時間が短い場合、4つ全部を扱おうとすると、どれも表面的な説明で終わってしまいます。時間が限られているときは、1つの力だけを選び、実際の場面で使えるところまで掘り下げるほうが実務に効きます。
たとえば「評価力だけを1時間で深める」研修なら、AIが出した答えをそのまま使わず、どこを確かめるかという実践に絞れます。委任力や記述力の説明を省いても、評価力という1つの力を確実に持ち帰ってもらえます。
もう一つの入り口が、2つの力を対にして教える「2つの往復」です。委任力と倫理的責任は、任せる前の判断(委任力)と、任せた後の責任(倫理的責任)という一対の関係にあります。同じように、記述力と評価力は、どう伝えるか(記述力)とどう確かめるか(評価力)という、伝えると見るの往復です。
伝える
目的や条件を具体的に伝える(記述力)
見る
返ってきた答えを確かめる(評価力)
直して伝え直す
確認した結果をもとに、伝え方を修正する
伝えると見るは1回で終わらず、繰り返すことで精度が上がります。この往復そのものを教えると、受講者は「一度で完璧な指示を出す」より「何度かやり取りして仕上げる」感覚を持ち帰れます。この往復の詳細は、AIと働く4つの力の「伝えると見るの往復」で扱っています。
具体的な場面で選ぶ
入り口の選び方を、3つの場面で考えてみます。
部署横断の勉強会で、他部署のメンバーが半分を占める30分のライトニングセッションを任されたとします。参加者の経験もばらばらで、深い議論をする時間もありません。ここでは「1つを深く」を選び、記述力だけに絞って、具体的に伝えるとAIの返答がどう変わるかをその場で体験してもらうのが現実的です。
一方、新人研修の1コマとして90分をもらえたなら、参加者はほぼ全員が初心者です。「順に積む」を選び、委任力から順番に説明し、最後にミニ演習で確認する構成が向いています。
社内の有志が月1回集まる勉強会のように、回を重ねる前提があるなら、「2つの往復」を選び、記述力と評価力の往復を毎回のテーマにして、回ごとに題材だけ変える運用もできます。継続的な学びの場では、1回で完結させようとしないほうがうまくいきます。
やってみよう
演習1:自分が次に教える場面を診断する
次に予定している(または想定する)研修について、次の3点を考えてみてください。
- 参加者はAIをどれくらい使ったことがあるか
- 確保できる時間はどれくらいか
- 1回で終わるか、複数回にわたるか
この3点から、4つの入り口のうちどれが最も向いているかを選んでみてください。
演習2:入り口を変えたら何が変わるか
演習1で選んだ入り口とは別の入り口を1つ選び、同じ研修をその入り口で組み立て直すとしたら、説明の順番や演習の内容がどう変わるかを書き出してみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 教え方には、順に積む・どこからでも入る・1つを深く・2つの往復という4つの入り口があり、受講者の経験と研修の時間で選ぶ
- 初めての受講者には順に積む、経験者には事例から入る「どこからでも」が向いている
- 短時間なら1つを深く掘り下げ、対で理解させたいものは記述力と評価力のように2つの往復で教える
次のレッスンでは、この入り口を選んだあとに最初にやるべきこと、教える相手の説明書づくりを扱います。
セルフチェック
1. 初めてAIを教わる受講者向けの研修で、本文がまず勧めている入り口はどれですか。
2. 研修の時間が短いときに、本文が勧めている入り口はどれですか。
3. 「2つの往復」の入り口で、記述力と評価力の関係として本文が説明しているものはどれですか。