AGIは、未来が来たことを知らせる合言葉のように使われます。しかし、共通の合格試験が一つあるわけではありません。
医師が知りたいのは、名称よりも仕事の境界です。何を、どの条件で、どこまで任せられるのか。ここを三つの軸に分けます。
広さ、深さ、自律性は別の能力
Morrisらの枠組みはAIの能力を性能の水準と汎用性の広さに分け、段階と自律性を整理しています。
「広さ」は要約、翻訳、計算のような異なる課題へ移れるかを見ます。「深さ」は一つの課題でどこまで質の高い結果を出せるかを見ます。「自律性」は手順や道具を自分で選び、長い仕事をどこまで進められるかを見ます。
一語の到達宣言より、三つの軸を見る
高い能力があっても、自律性と責任は自動で付いてきません。
- 深さ
一つの難しい課題をどこまで解けるか
- 広さ
異なる領域へどこまで移れるか
- 自律性
長い仕事をどこまで自分で進めるか
医学試験で高得点でも、患者から不足情報を聞き、記録を確認し、変化へ対応する能力は別に測ります。三軸のどこを評価した結果かを先に読みます。
AGIという呼び名は、使用許可にならない
AGI、超知能、意識、身体を持つロボットは、同じ問いではありません。自然に会話できても、主観的な経験があるとは判定できません。幅広い問題を解けても、現実の物を安全に扱えるとは限りません。
医療でさらに必要なのは、その製品を、その用途で使えるかという判断です。対象患者、入力データ、誤りの影響、人の監督、施設の手続きを確認します。「AGIに到達した」という発表があっても、この確認は省けません。
AGIかどうかより、何を任せるか
臨床では名称ではなく、仕事ごとの損失と監督を決めます。
- 名称の議論
人間並みか、意識があるか、いつ到達するか
- 実務の判断
入力、出力、失敗時の損失、確認者、停止方法
点数と到達年は、条件を添えて読む
ベンチマークは決められた問題、使える道具、試行回数、人の介入という条件を持ちます。点数はその条件での結果です。医師の仕事全体の点数ではありません。
「AGIは何年に来る」という予測も、予測者が想定する能力と前提を読まなければ比べられません。年を当てるより、能力が伸びたときに自分の確認工程をどう変えるかを考える方が、仕事に使えます。
評価の目的はAIへ勲章を渡すことではありません。次に試す課題と、まだ任せない部分を決めることです。
観察課題:90点の中身を分解する
次の架空の発表を使います。
要約、翻訳、計算の計50問で90%正答した。各問は一回の応答で終わり、使う道具と手順は人が指定した。未知の課題と長時間の作業は評価していない。
広さ、深さ、自律性ごとに「分かったこと」と「まだ分からないこと」を一つずつ書きます。未評価の範囲も残します。診療への使用可否は結論づけません。
観察するのは、最初に「90%だから任せられる」と感じた範囲と、分解後に残った未評価の範囲です。この差を記録すると、7日間の試行で測る項目を選びやすくなります。
能力の軸を分けた次は、AIが道具を使って長い仕事を進めるとき、どこに人の確認を置くかを見ます。
参考・出典(2件)
- Levels of AGI for Operationalizing Progress on the Path to AGI(Morris et al., ICML 2024):性能、汎用性、段階、自律性を整理する枠組み。
- Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative AI Profile(NIST, 2024):生成AIのリスクを用途と運用の文脈で管理するための公的資料。