はじめに
2026年5月、株式会社AMPLを設立した。
AMPLはAmplifyから取った。増幅する、という意味だ。
会社を作ると決めたとき、名前だけは迷わなかった。AIを毎日使い続けて、1つだけ確信していることがあったからだ。
AIは道具ではない。増幅器だ。
あなたの中にあるものを、大きくする装置。知識があれば知識を増幅し、判断力があれば判断力を増幅する。同時に、雑さがあれば雑さを増幅し、偏見があれば偏見を増幅する。増幅器に善悪はない。善悪はあなたの中にある。
この原理を、会社の名前にした。会社がやることのすべてを、この一語で説明できるようにしたかった。
私は小児科医をしている。愛育病院で毎日、子どもと親を診ている。
外来の持ち時間は5分。この5分で、診察して、診断して、薬を出して、生活の注意点を伝えて、親の不安に応える。どう考えても足りない。
伝えきれなかったことを、親は家に帰ってからスマホで検索する。そこに出てくるのは広告まみれの不正確な情報だ。不安は解消されず、むしろ増す。
この非効率を仕組みで解決したかった。
minatonという医療情報サービスを作った。462本の記事はすべて、自分の臨床経験がベースになっている。外来で何百回も聞かれた質問に、何百回も答えてきた内容だ。AIが執筆を加速してくれたが、中身は10年分の臨床知そのものだ。
薬を処方するように、信頼できる情報を処方する。「情報処方」と呼んでいる。
外来で「この記事を読んでみてください」とQRコードを渡す。保護者がスマホで読む。次の受診のとき、「あの記事を読んで安心しました」と言ってもらえる。
一人の医師が対応できる患者数には限界がある。でも、その医師の知見をプロダクト化すれば、24時間、どこからでもアクセスできる。これが増幅だ。
「医師の知見を、社会の力に。」
これがAMPLのタグラインであり、会社を作った理由だ。
この確信に至るまでに、2500年分の人間の知恵が同じことを言っていることに気がついた。
ソクラテスは「無知の知」と言った。自分が何を知らないかを知っている者だけが、良い問いを立てられる。
ドラッカーは「貢献に集中しろ」と言った。作業ではなく判断に時間を使え。
Naval Ravikantは「自分をプロダクト化しろ」と言った。あなたにしかない経験を、テクノロジーで増幅しろ。
稲盛和夫は「考え方 x 熱意 x 能力」と言った。能力をAIが底上げするなら、差は考え方と熱意で決まる。
フランクルは「なぜ生きるかを知っている者は、どんな状況にも耐えられる」と言った。AIがhow(どうやるか)を解決した後に残るのは、why(なぜやるか)だ。
時代も分野もバラバラだ。でも全員が同じ構造を指し示している。
増幅されるのは、あなたが既に持っているものだけだ。ゼロに何を掛けてもゼロ。
この本は、古今東西の思想家、起業家、科学者、アーティストの言葉を横断しながら、「AIは増幅器である」というたった1つの原理を、あらゆる角度から検証する試みだ。
シャノンの情報理論からマクルーハンのメディア論、ティールのケンタウロスからNavalの特殊知識、ポランニーの暗黙知から宮崎駿の「生命への侮辱」、バフェットの複利からフランクルの意味への意志まで。
一見バラバラに見えるこれらの知恵が、「増幅」という一語で1本の線につながる。
この本を読み終えたとき、あなたに1つだけ問いが残っていればいい。
あなたは何を増幅させたいですか。