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増幅率は均一ではない

アンドレイ・カルパシーの指摘、リード・ホフマンの観察、稲盛和夫の方程式。専門家ほどAIの恩恵が大きい理由と、差を決める唯一の変数。

増幅率は均一ではない

AIは万人に等しく恩恵をもたらすのか。

違う。増幅器の恩恵は、均一ではない。

アンドレイ・カルパシーはこう言った。

Technical mastery is even more of a multiplier than before.

(アンドレイ・カルパシー、2024年)

技術的な熟練度は、以前よりもさらに大きな乗数になった。つまり、専門家であればあるほど、AIによる増幅の倍率が高い。

なぜか。

増幅器の出力は「入力 x 増幅率」で決まる。増幅率が同じでも、入力が大きければ出力は大きい。当たり前の話だ。

でも、それだけではない。専門家はAIの出力を検証できる。AIが出した答えの正誤を判断できる。間違いを修正し、足りない部分を補い、文脈に合わせて調整できる。このフィードバックループが、実質的な増幅率を高める。

初心者はAIの出力をそのまま使うしかない。正しいか間違っているかの判断がつかないからだ。専門家はAIの出力を出発点として、そこから自分の知識で磨き上げることができる。

リード・ホフマンも同じことを指摘している。

As people get more expert, they can do much better with AI.

(リード・ホフマン、2023年)

人は専門性が高まるほど、AIでもっとうまくやれる。

これは直感に反するかもしれない。「AIがあれば専門家でなくても大丈夫」という楽観論が広がっている。プログラミングを知らなくてもアプリが作れる。医学を知らなくても診断ができる。そういう話だ。

表面的にはそう見える。でも、増幅器の原理から考えれば、話は逆だ。

プログラミングの専門家がAIを使えば、一人で10人分の仕事ができる。プログラミングを知らない人がAIを使えば、動くものは作れるかもしれないが、保守性、セキュリティ、パフォーマンスの判断ができない。専門家との差は、縮まるどころか広がる。

ここで、稲盛和夫の方程式を思い出す。

人生・仕事の結果 = 考え方 x 熱意 x 能力

(稲盛和夫『生き方』2004年)

稲盛はこの三つの変数について、決定的に重要なことを言っている。能力と熱意は0点から100点。でも考え方だけは、マイナス100点からプラス100点まである。

考え方がマイナスなら、能力が高くて熱意があるほど、結果は大きなマイナスになる。

AIの時代にこの方程式を当てはめるとどうなるか。

能力の部分をAIが底上げする。プログラミング能力、文章力、分析力、情報収集力。これらはAIで増幅できる。熱意も、AIによる成功体験の積み重ねで維持しやすくなるかもしれない。

では、AIで増幅できないものは何か。

考え方だ。

何のためにやるのか。誰のためにやるのか。どこに向かうのか。この方向性だけは、AIには決められない。そして、この方向性だけが、マイナスになり得る唯一の変数だ。

高い能力をAIで増幅し、強い熱意で駆動しても、考え方がマイナスなら、すべてがマイナスの方向に増幅される。詐欺師がAIを使えば、より巧妙な詐欺ができる。差別主義者がAIを使えば、より効率的に差別を広げられる。

増幅器に善悪はない。善悪は入力する側にある。

私が小児科医としてAIを使う理由は、臨床知を増幅して、もっと多くの親子に届けたいからだ。462本の記事を書けたのは、AIの能力ではなく、10年分の臨床で蓄積した知見があったからだ。AIはそれを増幅しただけだ。

でも、もし私の「考え方」が間違っていたら。たとえば、アクセス数を稼ぐために不安を煽る記事を書きたいと思っていたら。AIはその意図も忠実に増幅する。不安を煽る能力が10倍になるだけだ。

だから、AIの使い方を学ぶ前に、考えるべきことがある。

あなたの「考え方」はプラスか、マイナスか。

増幅率は均一ではない。専門家ほど恩恵が大きい。そして、増幅の方向を決めるのは、あなたの考え方だけだ。