同じ500キロカロリーでも、体への影響はまったく違います。鶏むね肉と野菜で500kcal。コンビニの菓子パンとジュースで500kcal。カロリーは同じ。でも、体の中で起きることは、まるで違います。
「カロリーはカロリーだ」という考え方は、栄養学の最新研究で明確に否定されつつあります。その鍵を握るのが「超加工食品」という概念です。
NOVA分類。食品を「加工度」で分ける
「超加工食品(ultra-processed foods)」という概念は、ブラジルのサンパウロ大学の栄養学者カルロス・モンテイロらが2009年に提唱した「NOVA分類」に基づいています[1]。
NOVA分類は、食品を加工の程度によって4つのグループに分けます。
- グループ1(未加工・最小加工食品): 果物、野菜、肉、魚、卵、牛乳、米、豆など。自然のままか、最小限の加工(乾燥、冷凍、低温殺菌など)が施されたもの。
- グループ2(加工用食材): 油、バター、砂糖、塩、酢など。料理に使うための基本的な材料。
- グループ3(加工食品): 缶詰の魚、チーズ、パン(シンプルなもの)、塩漬け肉など。グループ1にグループ2を加えて作られたもの。
- グループ4(超加工食品): 工業的に大量生産され、添加物や加工成分が多く含まれる食品。菓子パン、カップ麺、清涼飲料水、冷凍ピザ、加工肉、ポテトチップス、インスタント食品、市販の菓子類など。
超加工食品の特徴は、家庭のキッチンでは通常使わない物質。高果糖コーンシロップ、水素添加油脂、乳化剤、増粘剤、人工甘味料、香料、着色料など。が大量に使われていることです。成分表を見て、聞いたことのない名前が5つ以上並んでいたら、それは超加工食品である可能性が高い。
NIH実験。同じカロリーなのに体重が増えた
超加工食品の危険性を最も鮮明に示したのは、2019年にNIH(アメリカ国立衛生研究所)のKevin Hallらが発表したランダム化比較試験です[2]。
この実験のデザインは巧みでした。20名の成人被験者を、超加工食品中心の食事と未加工食品中心の食事に2週間ずつ割り当てました。重要なのは、両方の食事のカロリー、脂肪、炭水化物、タンパク質、食物繊維、糖分、塩分の量を一致させたことです。「カロリーが同じなら結果も同じはず」という仮説を検証するためです。
そして、被験者には好きなだけ食べてよいと指示しました。
結果は衝撃的でした。超加工食品群は、未加工食品群に比べて、1日あたり約508kcal多く食べました。2週間で体重が平均0.9kg増加。一方、未加工食品群は同じ期間で0.9kg減少しました。
同じ栄養素バランス、同じカロリー密度の食事が提供されたにもかかわらず、超加工食品群は「自動的に」食べ過ぎたのです。なぜか。
一つの仮説は、超加工食品の食べやすさ(口当たりの良さ、咀嚼回数の少なさ)が、満腹シグナルが脳に届く前に大量に食べてしまうことを可能にしている、というものです。実際、Hallの実験では、超加工食品群の方が食事のスピードが速かったと報告されています。もう一つは、超加工食品が腸内のホルモンシグナル(PYYなどの満腹ホルモン)を鈍化させる可能性です。
カロリーが同じでも、超加工食品は「もっと食べたい」と感じさせる。満腹シグナルが鈍くなるのです。
世界を席巻する超加工食品。日本も例外ではない
超加工食品は、もはや一部の食品ではありません。先進国の食事に占める超加工食品の割合は、驚くほど高い水準に達しています。
- アメリカ: 総摂取カロリーの約57〜60%が超加工食品由来
- イギリス: 約57%
- カナダ: 約48%
- オーストラリア: 約42%
- 日本: 推定30〜40%(研究によりばらつきあり)
日本は欧米と比べると割合は低いものの、コンビニエンスストアの発達、一人暮らし世帯の増加、共働き世帯の増加に伴い、超加工食品への依存度は年々高まっています。
特に、コンビニで手軽に購入できる食品。おにぎり(添加物入り)、菓子パン、カップ麺、惣菜パン、サンドイッチ、加糖飲料。の多くがNOVA分類のグループ4に該当します。日本のコンビニは世界的に見て高品質ですが、「便利で美味しい」ことと「体に良い」ことは、必ずしも一致しません。
超加工食品が体にもたらす5つのダメージ
問題はカロリーの過剰摂取だけではありません。超加工食品の多量摂取は、複数の経路で健康を損なうことが明らかになっています。
1. 慢性炎症の促進
超加工食品に多く含まれるトランス脂肪酸、精製糖、人工添加物は、体内の炎症マーカー(CRP、IL-6など)を上昇させることが報告されています[3]。慢性的な低レベルの炎症は、心疾患、糖尿病、がん、認知症など、ほぼすべての現代病のリスクファクターです。
運動は炎症を抑制する効果があります(第1部参照)。しかし、超加工食品中心の食事を続けていれば、せっかくトレーニングで抑えた炎症を、食事で再び増やしてしまうことになります。
2. 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の破壊
腸内には約100兆個の細菌が住んでおり、消化、免疫、さらには脳機能にまで影響を与えています。超加工食品に含まれる乳化剤や人工甘味料は、腸内細菌の多様性を減少させ、腸管バリア機能を弱めることが動物実験で示されています[4]。
腸管バリアが弱まると、本来通過すべきでない物質が血中に漏れ出す「リーキーガット(腸管透過性亢進)」が起こりやすくなり、これがさらなる全身炎症の引き金になります。
3. 代謝異常
超加工食品の多量摂取は、インスリン抵抗性の悪化、脂質異常症、内臓脂肪の増加と関連しています。フランスの大規模コホート研究(NutriNet-Sante、10万人以上)では、超加工食品の摂取量が10%増えるごとに、2型糖尿病のリスクが15%上昇することが報告されています[5]。
4. メンタルヘルスへの影響
超加工食品の摂取量が多い人ほど、うつ症状のリスクが高いことが複数の疫学研究で示されています。スペインの縦断研究では、超加工食品の摂取量が上位4分の1のグループは、下位4分の1のグループと比べて、うつ病のリスクが33%高かったと報告されています[6]。腸脳相関(gut-brain axis)を介したメカニズムが想定されています。
5. がんリスクの上昇
同じフランスのNutriNet-Sante研究では、超加工食品の摂取量が10%増えるごとに、全体のがんリスクが12%上昇し、特に乳がんリスクが11%上昇したと報告されています[7]。因果関係の確定にはさらなる研究が必要ですが、関連性は一貫して示されています。
運動する人こそ、超加工食品に注意が必要
せっかくトレーニングで炎症を抑えても、食事で炎症を増やしていたら意味がない。せっかく腸内環境を運動で改善しても、超加工食品でマイクロバイオームを破壊していたら意味がない。
運動を真剣に行っている人ほど、超加工食品の影響に敏感になるべきです。第28回で書いた「体の解像度」の観点からも、超加工食品中心の食事は、体からのフィードバックを鈍らせる可能性があります。添加物が味覚を麻痺させ、人工的な風味が「本物の味」の感覚を薄れさせていく。
完璧を目指さない。80/20ルール
ここで強調しておきたいのは、完全に避ける必要はないということです。
完璧な食事を目指すと、それ自体がストレスになります。「オルソレキシア」という概念があります。「健康的な食事」へのこだわりが過剰になり、食事がストレスの源泉になってしまう状態です。これは本末転倒です。
実用的な目標は「80/20ルール」です。食事の80%を未加工・最小加工食品で構成し、残りの20%は気にしすぎない。友人との食事でカップ麺を食べることもあるでしょう。忙しい日にコンビニの弁当で済ませることもあるでしょう。それは問題ありません。
ただ、「何を口に入れているか」に意識を向けるだけで、選択は変わります。コンビニで何かを買う時、成分表を一度見てみてください。知らない名前の添加物がいくつ並んでいるか。原材料の最初に「砂糖」が来ていないか。
体の解像度が上がると、「なんとなく調子が悪い」の原因が見えてくることがあります。その「なんとなく」の正体は、昨日食べた超加工食品かもしれません。
この章のポイント
- 同じカロリーでも超加工食品は「もっと食べたい」と感じさせる。NIH実験では1日508kcal多く食べ、2週間で0.9kg増加
- 先進国の食事の40〜60%は超加工食品。日本も30〜40%と例外ではない。コンビニの多くがこれに該当
- 超加工食品は5つの経路で健康を損なう: 慢性炎症、腸内細菌叢の破壊、代謝異常、メンタルヘルスへの影響、がんリスク上昇
- 完璧を目指さず「80/20ルール」で十分。何を口に入れているかに意識を向けるだけで選択は変わる
参考文献 [1] Monteiro CA, et al. Ultra-processed foods: what they are and how to identify them. Public Health Nutr. 2019;22(5):936-941. [2] Hall KD, et al. Ultra-processed diets cause excess calorie intake and weight gain: an inpatient randomized controlled trial. Cell Metab. 2019;30(1):67-77. [3] Elizabeth L, et al. Ultra-processed foods and health outcomes: a narrative review. Nutrients. 2020;12(7):1955. [4] Chassaing B, et al. Dietary emulsifiers impact the mouse gut microbiota promoting colitis and metabolic syndrome. Nature. 2015;519(7541):92-96. [5] Srour B, et al. Ultra-processed food intake and risk of type 2 diabetes. JAMA Intern Med. 2020;180(2):283-291. [6] Adjibade M, et al. Prospective association between ultra-processed food consumption and incident depressive symptoms. BMC Med. 2019;17(1):78. [7] Fiolet T, et al. Consumption of ultra-processed foods and cancer risk. BMJ. 2018;360:k322.
この記事は連載「なぜ動く人は、幸せそうなのか」の第37回です。 前回 → 第36回「タンパク質の黄金ルール」