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9年間続けてきた。これからも続ける

2017年に始めたクロスフィット。9年経った今も、週5回ジムに行っています。「すごいですね」と言われます。「意志が強いんですね」とも。でも、正直に言えば、全然すごくありません。特別なことは何もしていないのです。ただ、やめなかっただけ。

9年間の波。きれいな右肩上がりではない

9年間を振り返ると、きれいな右肩上がりではありません。むしろ、波だらけです。

時期主な出来事
1年目懸垂0回からスタート。毎回「もう無理だ」
2〜3年目一番ハマった。週6日。そしてオーバートレーニングへ
4年目肩のケガで2ヶ月離脱。9年で一番辛かった時期
5〜6年目休息を計画に組み込む。減らしたらパフォーマンスが上がった
7〜8年目劇的な成長はなし。でもベースラインが確実に上がった
9年目(今)人生で一番動ける体。40代の今が20代より強い

1年目。 何もわからないまま始めました。懸垂が1回もできなかった。バーベルを持ったことすらなかった。周りの人たちが軽々と動いているのを見て、自分が場違いだと感じていました。毎回のWODが苦しくて、「もう無理だ」と何度も思いました。

2〜3年目。 少しずつ体が変わり始めました。できなかった動作ができるようになる。重量が上がる。タイムが縮まる。この時期が、一番「ハマった」時期です。楽しくて仕方なかった。週6日通っていました。そして。第77回で書いた通り。オーバートレーニングに陥りました。

4年目。 肩のケガ。2ヶ月の離脱。復帰した時、以前の重量が挙がらない。体力が後退している。この時期が、9年間で一番辛かった。ジムの扉を開けるのに、いつもの3倍の気力が必要でした。

5〜6年目。 ケガから学んで、休息を計画に組み込むようになりました。週4〜5日に減らし、回復を重視するようになった。パラドックスですが、練習量を減らしたら、パフォーマンスが上がりました。

7〜8年目。 体の変化は緩やかになりました。1年で重量が5kg上がるような劇的な成長はもうありません。でも、安定感が増した。コンディションの波が小さくなり、「良い日」のベースラインが確実に上がっている感覚がありました。

9年目(今)。 人生で一番動ける体になっています。40代の今が、20代の頃より確実に強い。体力、柔軟性、持久力、筋力。すべてにおいて。

「続ける」の本質は「やめない」こと

この9年間で、私は何を学んだのでしょうか。

「続ける」の本質は、「やめない」こと。

当たり前のことを言っています。でも、これが真実です。

行動科学の研究では、運動習慣の継続率は非常に低いことが知られています。フィットネスクラブの年間退会率は約50〜60%とされており[1]、始めた人の半数以上が1年以内にやめます。スポーツ庁のデータでも、運動を始めた人の約63%が半年以内に離脱するとされています。

では、続く人と続かない人の違いは何か。

意志の強さではありません。環境と仕組みです。 第49回で「習慣が変わると人が変わる」、第71回で「習慣を科学する」と書きましたが、その核心は「意志力に頼らない」ことです。

私が9年間続けられた理由を、正直に分析するとこうなります。

朝の時間に固定した。 毎朝6時台のクラスに通っています。考える余地を与えない。「今日行くか行かないか」を判断しない。朝起きたら行く。それだけ。行動変容の研究では、「if-then計画(実行意図)」を立てることで行動の実施率が大幅に上がることが示されています[2]。「6時に起きたらジムに行く」。この自動化が、意志力を節約しています。

仲間がいた。 一人だったら、絶対に9年は続いていません。毎朝ジムで顔を合わせる仲間が、「行く理由」を作ってくれました。「今朝は調子どう?」「昨日のWOD、キツかったね」。この小さな会話が、「行かなきゃ」ではなく「行きたい」を生んでいました。社会的な運動継続効果については、Irwin et al.の研究でも確認されています[3]。

完璧を求めなかった。 第67回で「行くだけの日があっていい」と書きました。これは本当に大事です。モチベーションが低い日は、ウォームアップだけやって帰ることもありました。「ゼロよりマシ」の精神です。完璧主義は、継続の最大の敵です。 「全力でできないなら行かない」と思った瞬間から、行かない日が増えていきます。

体だけでなく、心も変わった

9年間で、体だけでなく心も変わりました。

ストレス耐性が上がった。 以前は仕事の小さなトラブルで一日中引きずっていました。今は、朝のWODで汗を流すと、たいていのストレスは消えている。残るストレスは、本当に対処が必要な重要なものだけ。運動がフィルターの役割を果たしている感覚があります。

判断が速くなった。 体が整っていると、頭もクリアです。睡眠の質が上がり、朝の覚醒度が高まり、午前中の仕事の生産性が明らかに違う。第9回で書いた「朝の運動がその日の挑戦を変える」は、9年間の実感です。

自己効力感が育った。 「できなかったことが、できるようになる」経験を何百回も積んできました。懸垂0回から20回へ。デッドリフト40kgから130kgへ。この小さな達成の積み重ねが、仕事でも、人生でも、「自分にはできる」という感覚を下支えしています。

9年経っても変わらないこと

9年間で変わらなかったことも、あります。

毎朝、ジムに行くときの「少しだけめんどくさい」という気持ち。これは9年経っても変わりません。5分前まで布団の中で「あと5分」と思っている。

でも、行けば必ず「来てよかった」と思う。

この事実も、9年間、一度も変わっていません。

これからも続ける

これからも続けます。10年目、20年目、30年目。何歳になっても動ける体を維持したい。

第64回で「50代から始めても遅くない」と書きましたが、ジムには実際に60代、70代の人もいます。彼らは「特別な人」ではなく、「やめなかった人」です。

私のジムにいる60代のTさんは、50代半ばで始めて、もう10年以上続けています。腕立て伏せもできなかった最初期から、今ではデッドリフト100kgを引きます。体年齢は実年齢より15歳以上若い。「始めた頃、こんな体になるとは思わなかった」と笑います。

特別なことは何もしていない。ただ、やめなかった。

これが、9年間で学んだ一番大事なことです。そして、これからも変わりません。

この章のポイント

  • 9年は右肩上がりではなく波だらけ。ケガ・オーバートレーニング・停滞を含めて「やめなかった」
  • フィットネスクラブの年間退会率は50〜60%。続く人と続かない人の差は意志力ではなく環境と仕組み
  • 朝の時間固定・仲間・完璧を求めない。この3つが9年の継続を支えた
  • 「行くときは少しめんどくさい、でも行けば必ず来てよかったと思う」。9年で一度も変わらない事実

参考文献 [1] Sperandei S, et al. Adherence to physical activity in an unsupervised setting: Explanatory variables for high attrition rates among fitness center members. J Sci Med Sport. 2016;19(11):916-920. [2] Gollwitzer PM. Implementation intentions: Strong effects of simple plans. Am Psychol. 1999;54(7):493-503. [3] Irwin BC, et al. Aerobic exercise is promoted when individual performance affects the group: A test of the Kohler motivation gain effect. Ann Behav Med. 2012;44(2):151-159.


この記事は連載「なぜ動く人は、幸せそうなのか」の第83回です。 前回 → 第82回「動くことは自分を知る旅の入口」