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週1回でいい

「運動を始めたいけど、毎日は無理」。当たり前です。毎日やる必要はありません。週1回でいい。 この言葉を、今日はエビデンスとともにお伝えします。

「週1回」で何が変わるのか

「週1回で本当に効果があるのか」と思うかもしれません。

あります。しかも、想像以上に大きな効果があります。

WHOのガイドラインでは、週に150分の中強度運動、または75分の高強度運動が推奨されています[1]。しかし、この数字を見て「毎日やらなきゃ」と思うのは早計です。ガイドラインには「推奨量に満たない運動でも、何もしないよりは健康上の利益がある」と明記されています。

2017年にJAMA Internal Medicineに掲載されたウィークエンドウォリアー研究は、衝撃的な結果を示しました[2]。6万人以上の成人を対象としたこの研究では、週末だけ集中的に運動する「ウィークエンドウォリアー」のグループが、毎日コンスタントに運動するグループと比較して、全死亡リスクの低減率においてほぼ同等の効果を示したのです。具体的には、ウィークエンドウォリアーの全死亡リスクは30%低下し、心血管疾患による死亡リスクは40%低下していました。

さらに2022年のJAMA Internal Medicine掲載の研究では、35万人以上のデータを分析し、週に1〜2回の運動でも、全死亡リスク、心血管疾患リスク、がんリスクのすべてが有意に低下することが確認されています[3]。

0回と1回の差は、1回と5回の差より大きい。これは科学的事実です。

用量反応曲線。「最初の一歩」が最も価値がある

運動の健康効果には「用量反応曲線」があります。横軸に運動量、縦軸に健康効果をとったグラフを想像してください。

このグラフは直線ではありません。最初に急激に上がり、そこから徐々に傾きが緩やかになる対数曲線のような形をしています[4]。つまり、「まったく運動しない状態から少し運動する」最初の変化が、健康効果としては最も大きな恩恵をもたらすのです。

Lancetに掲載された2011年の台湾の大規模コホート研究が、このことを鮮やかに示しています[5]。41万人以上を8年間追跡したこの研究では、1日15分の中強度運動(週に換算すると約100分)だけで、全死亡リスクが14%低下し、平均寿命が3年延びました。そして、運動時間を15分追加するごとに、全死亡リスクはさらに4%ずつ低下しました。

運動量全死亡リスク低下
最初の15分/日−14%
追加の15分/日−4% ずつ

ここで注目していただきたいのは、最初の15分がもたらす14%の低下と、追加の15分がもたらす4%の低下の差です。最初の一歩の価値が、いかに大きいかがわかります。

日本の運動習慣の現状。なぜ「週1回」すら難しいのか

ここで少し視野を広げて、日本の現状を見てみましょう。

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続)の割合は、男性28.7%、女性24.4%です[6]。ただし、この定義自体がかなり厳格で、「週1回30分の散歩」を1年続けている人はカウントされません。

一方、「何らかの身体活動を意識的に行っている」人の割合を見ると、日本のフィットネス参加率は4〜5%で、アメリカの23.7%、イギリスの15.9%、ドイツの13.7%と比較して圧倒的に低い数値です[7]。

なぜ日本人は運動しないのか。「忙しい」が理由の第1位ですが、もう一つ見逃せない要因があります。「完璧主義」です。

日本には「やるなら徹底的に」「中途半端は良くない」という価値観が根強くあります。運動においても、「ちゃんとしたウェアを揃えて、正しいフォームで、計画的に」やらなければならないと考えがちです。このハードルの高さが、多くの人を「やらない」方向に押しやっています。

北欧諸国ではどうか。フィンランドやスウェーデンでは、「完璧にやること」よりも「とにかく動くこと」が文化として浸透しています。スウェーデン語の「lagom(ちょうどいい)」という概念が示すように、過度でも不足でもない、ほどほどの運動を日常に取り入れることが重視されています[8]。

週1回、30分でいい。ウォーキングでいい。完璧でなくていい。

私自身の「週1回」から始まった9年間

私がクロスフィットを始めた最初の年は、週2回でした。正確に言うと、最初の1ヶ月は週1回からのスタートでした。

当時の私は忙しい勤務医で、当直明けの翌日にジムに行く体力なんてないと思っていました。友人に半ば強引に連れていかれた体験クラスの翌週、「もう1回だけ行ってみるか」と思ったのが始まりです。

最初の3ヶ月は、土曜日だけ。まさにウィークエンドウォリアーでした。それでも体が変わり始めたのを感じました。正確に言えば、体の変化よりも先に「気分の変化」がありました。土曜日にクロスフィットをやった週は、日曜日の夜の憂鬱(サザエさん症候群、と呼ぶ人もいます)が明らかに軽かった。

4ヶ月目に、水曜日の夜のクラスを追加しました。「週の真ん中にもう1回入れたい」と自然に思ったからです。こうして週2回になり、半年後には週3回になり、今は週5回。でも最初から週5回だったら、間違いなく続いていなかったと思います。

大事なのは、この「自然な増加」です。誰にも強制されず、自分の体と心が「もう少しやりたい」と言い始めるのを待つ。週1回を3ヶ月続けたら、体が勝手に週2回を要求してきます。

「最小有効用量」という考え方

医学に「最小有効用量(minimum effective dose)」という概念があります。薬が効果を発揮するために必要な最小の量のことです。

運動にも、この考え方が当てはまります。

どのくらいの運動で、有意な健康効果が現れるのか。British Journal of Sports Medicineの2020年のガイドラインレビューによると、週に約150分の中強度運動が最もコストパフォーマンスの高い閾値ですが、週75分(つまり1回30分を週2〜3回、あるいは1回75分を週1回)でも有意な効果があることが示されています[9]。

さらに興味深いのは、精神健康への効果です。Lancet Psychiatryに掲載された120万人を対象とした大規模研究では、週に3〜5回、1回45分の運動が精神健康に最も良い影響を与えることがわかりましたが、週1回の運動でもメンタルヘルスの改善効果は統計的に有意でした[10]。

つまり、あなたが週1回30分だけ運動するとしても、それは「効果のない努力」ではなく、「最小有効用量を満たした立派な投資」なのです。

今日からできる3つのこと

  1. 今週末、30分だけ歩いてみてください。 近所でいい。イヤホンをして音楽を聴きながらでいい。それだけで「運動した週」になります。

  2. カレンダーに「運動の日」を一つだけ入れてください。 曜日を固定するのがコツです。「毎週土曜日の朝」のように。トリガーが明確になると、習慣化しやすくなります。

  3. 「完璧にやろう」と思わないでください。 30分が無理なら15分でいい。15分が無理なら5分でいい。5分の散歩でも、「何もしないゼロの日」とは天と地ほどの差があります。

まず、1回

まず、1回。

その1回が、次の1回を呼びます。次の1回が、その次の1回を呼びます。気がつけば、それは「習慣」になっています。

週5回やっている私も、9年前の最初の1回がなければ今の自分はいません。すべては、あの1回から始まりました。

あなたの1回は、いつですか。

この章のポイント

  • 週1〜2回の運動でも、全死亡・心血管・がんリスクが有意に低下する。0回と1回の差は、1回と5回の差より大きい
  • 用量反応曲線は対数的。最初の15分が最大の恩恵をもたらし、追加分は徐々に減衰する
  • 日本人が運動しない理由は「忙しさ」だけでなく「完璧主義」。lagom(ちょうどいい)の発想が必要
  • 最小有効用量は週1回30分。それは「効果のない努力」ではなく「立派な投資」である

参考文献 [1] WHO. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020. [2] O'Donovan G, et al. Association of "weekend warrior" and other leisure time physical activity patterns with risks for all-cause, cardiovascular disease, and cancer mortality. JAMA Intern Med. 2017;177(3):335-342. [3] Dos Santos M, et al. Association of the "weekend warrior" and other leisure-time physical activity patterns with all-cause and cause-specific mortality: a nationwide cohort study. JAMA Intern Med. 2022;182(8):840-848. [4] Arem H, et al. Leisure time physical activity and mortality: a detailed pooled analysis of the dose-response relationship. JAMA Intern Med. 2015;175(6):959-967. [5] Wen CP, et al. Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study. Lancet. 2011;378(9798):1244-1253. [6] 厚生労働省. 令和4年 国民健康・栄養調査結果の概要. [7] 笹川スポーツ財団. スポーツライフ・データ 2023. [8] European Commission. Eurobarometer on Sport and Physical Activity. 2022. [9] Bull FC, et al. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Br J Sports Med. 2020;54(24):1451-1462. [10] Chekroud SR, et al. Association between physical exercise and mental health in 1.2 million individuals in the USA between 2011 and 2015: a cross-sectional study. Lancet Psychiatry. 2018;5(9):739-746.


この記事は連載「なぜ動く人は、幸せそうなのか」の第66回です。 前回 → 第65回「人類は医療を再発明できるか」